MY HERO’S INTERVIEW

GUEST プロフィール
高原美由紀さん
一級建築士 スペースデザイナー
科学的知見と美的センスを融合させ、「ただ美しいだけではない、心身にプラスに働きかける空間」を導き出すデザイナー。心理学、脳科学、行動科学など人間科学を空間デザイン活用している。早稲田大学大学院・人間研究科にて環境行動学、環境心理学を研究中。
インテリアプランナー、カラーコーディナーター1級、住環境福祉コーディネーター2級、キッチンスペシャリスト、ライティングコーディネーター、栄養士、ライフコーチなど多岐にわたり資格を取得し活躍中。

有限会社カサゴラコーポレーション一級建築士事務所
http://casagora.net


私の父方の祖父が大工、父の代から家具の製造販売をして現在兄が継いでいる環境で、実は住まいやインテリアにとても興味がありました。居住空間、配色、コーディネート、家具の高さ、配置などなど、人間工学的にわずかなことで人の心理や健康に及ぼすものはとても大きいことがわかっています。今回は一級建築士でもあり行動学、脳科学、心理学も用いて作るスペースデザイナーの第一人者である高原美由紀さんをゲストにお迎えして自分に合う空間についてインタビューさせていただきます。

MY HERO’S INTERVIEW

Vol.1 インテリア=人から始まる建築。

立河:美由紀さん、今日はよろしくお願いいたします。

高原:よろしくお願いいたします。

立河:美由紀さんは一級建築士でいらして、そもそも建築士になられたのはどうして?

高原:実は、栄養士なんです。

立河:え?本当??

高原:そうなんです。もともと大学は栄養科を卒業しました。(笑)

立河:どうして栄養科を専攻されたんですか?

高原:多分ツールはなんでも良かったんですけど、人の健康と幸せに役立つ仕事がしたいと思っていたんです。大学では科学的観点から物質の配合など実験ばかりをしている学部でした。人間は動物であり食べ物が身体に直接作用し、自分を作るということを体感したんです。ですから病態栄養学の観点から人の健康を作っていくということをやろうと思っていました。

立河:とても興味深い分野ですね。

高原:卒業後は病院に勤める予定でしたが夜勤があったので家族から反対され諦めるしかなく、やりたいことを見失ってしまったんです。大学の卒業を控えているのでとにかく就職をしないとならず、商社で秘書になったんです。

立河:お似合いですね。

高原:それも人のサポートをする仕事。多分秘書も天職だったんです。けれどちょうどその時代に男女雇用均等法が施行されたのでもっと自分の可能性を試したい、手に職が欲しいと、つまり専門職に就きたいと思ったんです。その時に空間インテリア、デザインをやりたいなと思って専門学校に入ったんです。

立河:専門職ってなんだろう?と考えた時に?

高原:自分の好きなことを考えて、デザインや空間だなと思ったんです。

立河:栄養学から秘書になり、秘書から空間。好きだったから選んだんですね。ご自身のお部屋のインテリアも何か工夫していたり?

高原:イメージで物事を捉えるんですけど、世の中には絶対音感を持っている人がいるように、“共感覚”と言って視界に入るものや聴こえてくるものなどが色で見える人がいるんです。自分にはその共感覚があって前に住んでいた家の空間が闇、群青色に見えていたんです。

立河:共感覚を持っていない一般の人には、部屋に置いてある物がそれぞれのもつ色で見えているんですよね?

高原:そうです。とてもカラフルでオレンジランプがついているようなThe50’s、60’sのような家だったんですけど、南を向いているのに木が生い茂っていて日が射さず、光が少なかったんです。だから自分の中でのイメージは群青色でした。そして引っ越して日当たりのいい家に住めることになり、部屋のインテリアを決める時、全部オレンジ色にしたんです。

立河:壁の色とか?

高原:濃淡はあるんですけど、サーモンピンクの壁でライトやカーテンはオレンジ。とにかくオレンジなイメージ。それは“光・元気・エネルギー・情熱・明るさ”を感じたんですね。そしてそこへ住んだ時に自分の気持ちがとても明るくなったという体験から空間は心理的に人に影響を与えると実感しました。

立河:なるほど。

高原:食べ物ではなく人に影響を与えるものは何か?と考えた時に自分にとって身近なものが空間だったんですね。デザインはもちろん好きだったんですが、そういった心理的作用も踏まえて人のために役立つことがしたいと思ったんです。

MY HERO’S INTERVIEW

立河:そこから勉強が始まったんですね。

高原:専門学校に通い、とにかく楽しくて寝ても覚めても勉強していました。とはいっても勉強しているという意識がなく、新たなことを学べるのが嬉しくて仕方がありませんでした。

立河:どのくらい勉強したんですか?

高原:もう30年くらい。(笑)

立河:あははは。それは今もなお勉強が続いているってことですね。

高原:そうです。結局、空間デザインって人を知らないとできないんですよ。

立河:そこがすごいですよね。人が好き?

高原:人に興味がものすごくあります。だから勉強が尽きないんですよね。学校自体は1年で終わり、インテリアのデザイン事務所に就職しました。その頃ちょうどバブル期でものすごい仕事があるんですよ。新入社員なのに17億円のレストランなどが入っている大型複合施設の物件を一人で任されたり。25歳の頃でした。

立河:25歳でそんな大きな仕事を任されたなんてすごいですね。

高原:入社2年目だから何もわからないでそれをやってるんですよ。(笑)

立河:元々の才能がおありなんですね。

高原:根性です。(笑)朝から夕方までは現場の管理で職人さんたちに工事内容を伝えてお願いして、夕方現場が終わったら鍵をしめて事務所に帰って夜中まで図面を描いていました。

立河:働きましたねー!

高原:現場監督兼デザイナー兼・・・打ち合わせ契約発注などの事務作業、何でもやりました。すごいでしょう?よく入社2年目にやらせるわ、と思いました。(笑)

立河:お忙しかったとは思いますがそこまでやらせてもらえるのはラッキー。勉強になりましたね。

高原:そうですね。ものすごく凝縮された3年半でした。それがあるから今があると思えるほどいい経験をさせていただきました。

立河:それまで内装インテリアが主でいらしたのが、建築も勉強されて?

高原:内側=インテリアから外側=建築へ広がってきたという感じですね。

立河:それは建築もやらざるを得なくなってきたということ?

高原:はい。この空間だけやっても間仕切りはどうするの?という話になると建築のこともわからないと進まないことに気がついて。例えば、建築をやっている方は箱(建物)からくるんですね。建てる場所、都市から来て、箱、最後にインテリアなんです。そうすると最も重要な“人”がどこかへ行ってしまってるんです。

立河:人が使うために建てられるのに、ですよね。

高原:そうなんです。都市の中で箱がどう見えるか?どんな役割をするかに重点が置かれていてじゃあそこで人はどうやって暮らすの?という視点が抜け落ちてしまっている建築がとても多いんです。

立河:建物はとても洗練されているのにどうも居心地が悪いと感じることってよくあります。

高原:ずっと“人”から始まっているコンセプトは変わりません。例えばその空間にいる人の距離感や見える景色、そこでどう感じるか、そういったことを突き詰めていきます。心地いい距離、“自分のパーソナルスペース”というものがどのくらいなのか、もし、パートナーがいたらその人との距離感はどのくらいが心地いいのかによって空間の作り方は変わってきますよね。

立河:まさにおっしゃる通りですよね。そのパーソナルスペースの取り方や相性が人とのコミニュケーションの中で大事だと感じます。公共の場、例えば駅や劇場、ホテル、レストランなどベンチや椅子の感覚は人が基本的に持つパーソナルスペースを元に作られているんですよね。そうすると建物の躯体から考えていかないとスペースも取れなくなってしまう。

高原:そうなんです。それで建築の勉強も始めたんです。

取材/文 タチカワ ノリコ
Photo Takeru

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